地形判読について

 私たちは、生活の大半を地面の上ですごしています。その地面には必ず何らかの形があります。傾斜地か平坦地か、凹地か凸地か、またそれらの組み合わせにより、様々な形をしています。では、なぜその形ができたのでしょうか? それは、過去に発生した火山活動や地殻変動、豪雨や地震による斜面崩壊、水や風などの力により土砂が移動したことが原因であり、我々が今見ている地形は過去の土砂移動の痕跡と言えます。これらの土砂移動により、地形が大規模に変化するとき、そこで暮らしていた人間や動植物にとっては、大きな災害となったことでしょう。そして、災害は同じ場所で、同じ様な現象が繰り返し発生する可能性が高いことが知られています。つまり、地形について学び、注意深く地形を読み取ることで、その場所で過去に発生した災害を知り、将来発生する災害リスクを知ることができます。筆者は、このような考えに基づき、森林・林業や山村集落における地形判読の活用に取り組んできました。地形判読技術を活用することで、例えば、森林内に道路を開設するときには、どのような場所を避け、どこに線形を通すべきかを検討することができます。また、治山ダムや防災施設をどこに設置すれば、限られた予算の中でより効果的な対策ができるか。木材生産のために樹木を伐採して良いか、それとも伐採を避けて保全的な森林整備を進めるべきか。さらには、伐採後に何の種類の木を植栽し、どのように施業するか。など、様々な場面で地形判読の技術が活用できます。
 このサイトでは、地形判読について基本的な技術を共有するとともに、地形に興味がある人たちの情報交換の場になれば幸いです。

地形判読の基礎知識

 地形図から読み取ることができる情報には、「地形量」と「地形種」の2種類があります。「地形量」とは、長さや面積、それらの比など、定量化できる形態要素のことを言い、標高、傾斜、曲率、面積、体積、方位、起伏量などがあります。一方、「地形種」とは、特定の成因によって形成された特定の形態的特徴をもつ地形の部分のことを言い、扇状地、崖錐、地すべり滑落崖、地すべり側方崖などがこれにあたります。地形量は計測により何らかの数値化が可能な情報であり、同じ方法で計測すれば誰が行っても同じ結果になります。しかし、地形種は特定の地形の部位に付けた名称であり、判読者の解釈によって判断されるものです。同じ地形を見ても地すべりだと判読する人もいれば、違うという人がいるように、判読者によってその判断が異なることがあります。従来の等高線による地形図を使って地形種を判読するには専門的な知識と経験が必要であり、初心者には少しハードルが高いものでした。そこで、少しでもそのハードルを低くしようと思い開発した地形表現図方がCS立体図です。
 まずは、代表的な地形量と言える、「標高」「傾斜」「曲率」について説明します。1つ目は「標高(elevation)」です。地理院地図など私たちが目にする多くの地形図は等高線で表現されています。等高線とは、同じ標高(東京湾の平均海水面からの垂直距離)を結んだ線のことです。森林、林業において、標高は重要な情報の一つです。理科の授業で標高が100m上がると気温が0.6℃下がると教わったことがあると思います。つまり標高が2,000mの場所は海岸付近よりも12℃も気温が下がることになります。林木は、樹種や品種によって耐寒性が異なります。例えば、耐寒性はカラマツ>ヒノキ>スギと言われており、同じ山の斜面であっても、標高によって適地が異なります。他にも土壌水分や積雪量などの条件もあるため、単純に標高だけで植え分けられることはありませんが、植栽する樹種を選ぶときに標高も大きな要素の一つになります。また、林木がかかる病気も標高によって影響を受けます。例えば、マツノザイセンチュウによってマツが枯れる「松枯れ」は標高によって被害の程度が大きく異なります。これは、この病気の原因となるマツノザイセンチュウと、これを媒介するマツノマダラカミキリの繁殖力が標高による気温の違いによって異なるためです。長野県においては、アカマツは低標高地から標高2,000m以上の場所にも見られますが、今のところ標高1,000m以上では松枯れ被害はほとんど見られません。低標高地では、一度松枯れが発生すると、ほうっておくと数年以内に周辺の松林がほとんど枯れてしまうため、枯れる前に一帯の松を伐採して木材として売るという選択も必要だと思います。しかし、高標高地では被害木を適切に処理すれば、周辺の松は被害から免れることができるかもしれません。このように「標高」の情報だけからも、その場所に何の樹種を植えればよいのか、又は、どのような経営をしたらよいのかの判断材料になります。
 2つ目は「傾斜(slope)」です。傾斜とは、ある面が水平面とのなす角度のことを言い、ここでは地表面が水平面となす角度のことを言います。地形図では、等高線間隔が広いときは緩傾斜、狭い場合は急傾斜になります。単位は角度(度またはラジアン)、百分率(%)、比(垂直/水平)、割分などで表します。取り扱っている傾斜データの単位を間違えないように気を付ける必要があります。また、GISを用いて傾斜の計算を行う場合は、最急傾斜か近傍8メッシュとの平均傾斜など、計算方法が異なる場合があるので注意が必要です。さらに、解析に用いる数値標高データ(DEM:Digital Elevation Model)のメッシュサイズ(解像度)によっても値が変わります。メッシュサイズが大きいDEMを用いると、特に尾根部や谷部では、実際よりも低い値ななりますので注意してください。同じ土質の山地斜面において、傾斜が急になるほど斜面崩壊の危険性が高いことは容易に想像できます。しかし、その斜面が基盤岩か崩積土か、石礫か砂か、風化しているか否かなどの土質条件によって崩壊のし易さは異なりますが、少なくとも緩傾斜地よりは急傾斜地の方が崩壊は発生しやすいので注意が必要です。
 

<参考文献等>

鈴木隆介(1997) 建設技術者のための地形図読図入門(全4巻).1322pp,古今書院,東京.
日本地形学連合(編)(2017)地形の辞典.1018pp,朝倉書店,東京.
戸田堅一郎(2012) 航空レーザ測量データを用いた微地形図の作成.砂防学会誌65(2):51-55.
・戸田堅一郎(2014) 曲率と傾斜による立体図法(CS立体図)を用いた地形判読.森林立地56(2):75-79.
・柳澤賢一(2021)カラフトヒゲナガカミキリの分布と線虫保持状況調査.令和2年度業務報告:48-49.
・柳澤賢一(2022)カラフトヒゲナガカミキリの分布と線虫保持状況調査.令和3年度業務報告: